ハーロック・ドリーム 02

 私がアルカディア号の乗組員になって数日して、ドムール太陽系の惑星スラビアってところに行った。何でもそこでヘクタイトとかいう金属が取引されるって話で。多分ハーロックたちがヘビーメルダーに来たのも、その話をどこかで聞いて、正確な期日と場所を調べるためだったんだろうと思う。あそこにはそういう情報も集まってくるからね。
「そのヘクタイトとかいうのを、買うんですか?」
「買わないさ。襲撃かけて分捕るんだ」
トチローさんがあっさり言うんで、びっくりした。艦橋に向かって歩いてる最中だった。
「襲撃かけるって……どうやるんですか?」
違法行為じゃないかと言おうとしたんだけど、直前にここが海賊船だと思い出して、さすがにそれはやめたね。
「ヘクタイトを積んでる宇宙船を襲うのさ。惑星スラビアってのは本来そういう鉱石の豊かな星で、採掘から精錬、出荷まで政府の工場で一貫して管理されてる、はずなんだが」
「どうやら裏取引のルートがあって、管理外で市場に出回ってるのがあるらしい。どうせ権力者の私腹を肥やすためだ、構うものか」
いつの間にか後ろから歩いてきてたハーロックが、続いて言った。ちょっと驚いて、振り返って見上げた私にニヤッと笑って
、お前はここで見物してろ」
言われて気づいたら、艦橋に入ったところだった。
 そうしたらヤッタランさんが、横からハーロックに声をかけてきた。
「キャプテン」
「ヤッタランか。どうした」
「魔地機関長に、呼び出されてきましたねん。この船の大事な部品を作るための金属だから、お前もいてくれないと困る言うてましたが」
「確かに、大事な金属ではあるんだが」
その魔地さんがいなかった。寝とるんやろか、とヤッタランさんが言った時
「寝とらんわい。機関の整備をやっとったんだ」
扉が開いて、魔地さんが入ってきた。そしてすぐに
「トチロー、例のエンジン部の…」
二人して、小声でよく分からない難しい話してた。ハーロックとヤッタランさんも途中から話に加わって、私はよく分からないから艦橋の辺りを歩き回って、他の乗組員の人に機械のことについて教えて貰って、触ったりもしてた。
「まあ、ヘクタイトがちゃんと手に入れば、その問題は多分解決する。心配するな」
トチローさんが急に大きな声でそう言ったのが聞こえて、私はちょっとびっくりしたんだと思う。触ってたボタンを、一瞬強く押してしまって。
「──ボートC、メルクリウス4562に載せて運ぶ」
「メルクリウス4562、了解」
「うわわ!」
いきなり別の船の通信が聞こえたから、びっくりして周りのボタン幾つか押したんだ。静かになった途端、トチローさんが近づいてきて
、ちょっとどいてくれ」
「あ、はい」
私が座ってた席に座って、真剣な顔して色々動かしていた。私は心配になって
「あの…。何か悪いことでも…?」
「いや、そうじゃない」
そうは言ってもハーロックも魔地さんもこっちに来るし、トチローさんは黙り込んで色々いじってるし、怒られるんじゃないかと思ってどきどきしていたら
「ボートC、メルクリウス4562に載せて運ぶ」
「メルクリウス4562、了解」
さっきの、別の船の通信だった。また驚いていたら、ハーロックが
「ボートC。偽装民間船か」
「メルクリウス4500系と言えば、長距離の客船だな」
応じて、トチローさんがハーロックの方を見て言った。私は訳が分からなくて
「何ですか、そのギソウミンカンセンって」
「民間船、つまり普通の客船や輸送船に偽装された船のことよ。この場合は客船に偽装された輸送船だと思うわ」
いきなり声がしたんでそちらを見たら、ミーメさんがいつの間にかハーロックの後ろに来ていた。何も知らない私は
「でも、何で偽装した船に…」
「そりゃあ、ばれたら困るものを運んでるからさ」
トチローさんがあっさりした口調で言った。私は少し考えて、
「あ、じゃあ、その船の中に──」
「そういうことだ。お手柄だな、
ハーロックはそう言うと、笑顔で私の頭を少し手荒に撫でてくれた。髪がくしゃくしゃになった。

 それから少し、惑星スラビアのすぐ外側にある小惑星帯に戻って、みんなで色々手分けして調べた。私? ネットでその船を建造した会社のサイトにアクセスして情報収集。今にして思えば別に私でなくてもよかったんだろうけど、その程度なら出来るだろうってことだったんだと思う。
 で、本当に惑星スラビアにその船がいるのか、いたとしてそれが本当にヘクタイトを積んで出航するのか、どの宇宙港から出てきてどのポイントで襲撃するのがいいのか、ハーロックが中心になって話し合ってた。私は会議室みたいになってる艦橋に飲み物運んでから、食堂のマスさんのところで
「ああいう風に話し合ってるものなんですか、いつも」
「まあ今回は、トチローさんが前から欲しがっていたヘクタイトだから。いつもは結構いい加減なものさ。酒性岩奪う時なんか、足りなくなったら襲う感じだしねえ」
「マスさん、ヘクタイトのこと知ってるんですか?」
「そりゃあ知ってるよ。かなり前から探してた金属だからね」
「へえ。どんな金属なんですか?」
「何でも、かなり強い金属で、衝撃加えると曲がるけどなかなか折れないらしいよ。エンジンとか外部装甲とかに、使うんじゃないのかねえ」
「あ、そう言えば、トチローさんがそんな話してました」
「だろ? 攻撃かける日が決まったら言っとくれ、前祝いするから」
「はい」
負けるとか死ぬとか、私は全く心配してなかった。

 「分かった!」
自分の部屋で端末いじってたトチローさんが大声で叫んだ時、私はそこにおにぎりとお茶を運んでいる最中だった。入ろうとしたら中から大声が聞こえて、驚いてお茶を零しそうになったんだ。体勢立て直した後近づいて
「分かったって、何がですか?」
「ヘクタイトを積んだ船が、惑星スラビアの第二宇宙港を出航する日時さ。メルクリウス4562、間違いない」
どうやって調べたのか今でもよく分からないけど、端末の画面を覗いたら、五十時間後となっていた。私が持ってきたおにぎりを二個くらい一気に口に詰め込んで、トチローさんは
「よーし、これで改造が進むな。アルカディア号、それまでもってくれよ」
って言った。私はその時、ほとんどその言葉を気に留めてなかった。

 五十時間は、地球時間で言うと丸二日以上。その間に詳しい作戦立てて準備整えて前祝いやって、みんな艦橋に集まってきた。ヤッタランさんはいなかったけど。
、お前は一切動くなよ。ここにいるだけでいい」
初めて戦闘用の防護スーツを着て、慣れない短銃持って、緊張して艦橋で突っ立ってた私に、トチローさんはそう言ってくれた。
「あ、はい。でも…」
「俺がここにいる」
ハーロックの声が、背後から聞こえた。振り返ると、防護スーツとヘルメットを彼だけが着てなくて、いつもの位置で舵輪握ってた。でもって
、お前もヘルメット取っていいぞ」
言われたから外した。その横で、トチローさんがハーロックに近づいて
「さてと、そろそろ出航か」
「そうだな」
「もしこの船に何かあったら、お前の判断でいいようにしてくれ。任せた」
「ああ」
そのまま二人で、しばらくスクリーン眺めてた。

 「メルクリウス4562、本艦より二百宇宙キロの地点まで接近!」
「よし、アルカディア号、移動開始」
目標の船の航路とアルカディア号の航路が、ドムール太陽系の一番外側の惑星の公転軌道上で交わるようにセットしておいて、小惑星帯から抜けた。公転軌道上と言っても、その時の交点は惑星そのものからは随分離れていたと思う。
「そろそろやな、キャプテン」
そこに、ヤッタランさんが現れた。スクリーン見上げて
「何や、まだ二時間後かいな。ほならまだいいな」
部屋に戻ろうとした時、船が微妙に揺れた。その後すぐに魔地さんが、内線のテレビ電話かけてきて
「おーい、トチロー。ちょっと来てくれ! エンジンがおかしいんだ」
「何!?」
トチローさん、画面をじっと見てた。それから
「分かった、すぐ行く!」
そう言って後ろ振り返ると、小走りくらいの速度で出口に向かいながら
「ハーロック、戦闘指揮の方頼む!」
「分かった」
そのまま出て行った。私も思わず後を追おうとしたら
、お前はここにいろ」
ハーロックに呼び止められた。
「大丈夫なんですか? エンジンがどうとか言ってましたけど」
「心配するな、大丈夫だ」
私は、気になったけれども残ることにした。

 それから、少し経った頃だった。
「メルクリウス4562、進路をやや右に変えて加速中! 我々から遠ざかっている模様です!」
「アルカディア号、左へ五度の進路変更! あの船の後を追う!!」
「了解!」
ハーロックが舵輪を回して進み始めた途端、船が微妙に揺れた。それまで乗っていてそんなことはなかったから、不安で思わずハーロックの顔を見上げたら、私の視線に気づいたのか薄く微笑んでくれた。それからトチローさんをスクリーンに呼び出して
「トチロー、そっちは大丈夫か?」
「ああ。ちょっとエンジン周りを補強して、数時間は全速前進出来るようにした。ただしそれも長くは持たん」
「そうか。実は例の船が進路を変えた」
「何!!?」
トチローさん、驚いて大声を出していた。でもってすぐに
「分かった。エンジン周りは何としても五時間以上持たせるから、お前はその船に載ってるヘクタイトを絶対に手に入れろ。多少装甲が吹き飛ばされても構わん」
「無理するなよ」
「ああ」
二人の会話はそれだけだった。それからハーロックは
「アルカディア号、進路そのままで全速前進!!」
「了解っ!!」
ゴゴゴゴゴ…と微妙に揺れながら、アルカディア号は進み始めた。

 更に進路を変えたメルクリウス4562に追いついたのは、約一時間半後だった。その船をアルカディア号の主砲の射程に入れ、併走する程度に速度を落とした後
「降伏勧告を出せ。積み荷を全て差し出せば助けてやると」
「分かりました」
数分後に返事が返ってきたんだけど、『我々は普通の客船で、これと言って積み荷など積んでいない。乗客を差し出せというなら拒否する』という感じだった。
「あくまでごまかす気らしいな」
「どうするねん。ちょっと勝手が違いまっせ」
ヤッタランさんが訊いた。今まではアルカディア号ってだけでほとんどの場合びびって、降伏して積み荷を渡していたそうで。
「白兵戦で乗り込む。それが一番確実だ」
「それなら私も──」
ミーメさんがハーロックに近づいたんで、ヤッタランさんは
「そんならワイは、こっちに残って積み替えの指揮やるわな。こういう作業はワイがやらんとあかんねん」
「よし。──減速しつつ右旋回せよ! 敵船の左舷後方に接近、あわせて移乗白兵戦の準備だ。気圧調整装置、作動準備開始!!」
「キャプテン、強制接舷はワイがやるから、乗り込む準備しとって構わんよ」
「ああ」
ハーロックが頷いて、艦橋から出ようとした時だった。
「おい、ハーロック。あの船に乗り込むのか?」
トチローさんがスクリーン越しに声かけてきた。
「ああ。奴らがヘクタイトの引き渡しを拒否したからな」
「白兵戦なら俺も行く。この速度なら魔地に任せて大丈夫だ」
「分かった」
それから、ハーロックはそこを出た。私が見送っていると、後ろで
「ヘクタイトがあるのは、多分あの船でも下の方のはずや。となると当然、接舷もその周辺にせんとあかん」
ヤッタランさんが、そう呟いていた。
「大丈夫ですか?」
「なあに、大丈夫や。ワイの神業見せたるで」
操縦台に行って、腕まくりしていた。私はここにいることにした。

 徐々に、メルクリウス4562との距離を詰めていく。みんな白兵戦の方に行っちゃって、艦橋には数人しか残っていなかった。
「敵艦まであと数キロ!」
「加速して、そのまま斜め後ろから体当たりや!」
数秒後に接舷した瞬間、低い、大きな音がして、アルカディア号が軽く揺れた。スクリーンからは相手の船の外装がはっきり見えたんだけど、客船に必ずある客室用の窓が内側から塗り固められていて、中が見えなくなっていた。
「これでよし。後は積み替えの手伝いだけやな」
ヤッタランさんは平気な顔していたけど、スクリーン見ていたら向こうの船の乗組員と撃ち合いになっていた。その中をトチローさんが、いつの間にか敵に接近して重力サーベル振り回して殴り倒していた。
「トチローさん、ああいうの得意なんですか?」
「剣はキャプテンより上手い。ま、銃はからきしなんやけどな」
「へえ。そうなんですか」
私は改めて、トチローさんのことを尊敬した。

 それから約二時間後に、ヘクタイトを格納してる倉庫を占領したっていう知らせがあった。ついでに向こうの船長も捕まえて、その船の乗組員にもこっちへの移送を協力させることにしたらしく、作業は一時間くらいで済んで、すぐにその船から離れた。
 帰ってきたハーロックはすぐにアルカディア号の操縦に戻って、話しかけづらかったんで、トチローさんに様子を聞くことにした。
「ご苦労様でした。大変じゃなかったですか?」
「まあ、いい腕試しにはなった。俺たちに抵抗する奴自体、最近は珍しいからな」
「スクリーンで見てたら、トチローさん凄い勢いで敵を倒してましたね。格好良かったです」
「ああ、あれか。人は見かけによらぬもの、俺が小さいからって舐めるとああなる」
お前も見かけで人を見くびるなよ、とトチローさんは付け足してた。頷いた後
「結局何人倒したんですか?」
「十人は斬ったな。と言っても峰打ち…うわわっ!!」
その瞬間、アルカディア号が大きく揺れた。私もトチローさんもこけて、トチローさんは何でか知らないけど頭から落ちて、しばらくうんうん唸ってた。そこに魔地さんが
「トチロー、まずい! エンジン回路がショートした!」
「何!!?」
すぐに立ち上がって、艦橋を飛び出していった。

 「ハーロック、この船大丈夫なんですか?」
「ん?」
それから少しして、私はハーロックに訊いた。
「だってさっき、エンジン回路がどうのこうの」
「ああ、あれか。トチローのことだから、多分大丈夫だ」
「そうなんですか? かなり慌ててましたけど」
「俺はあいつを信頼してる。あいつが何か言ってこない限り、大丈夫だ」
ハーロックは、そう断言していた。私もそれ以上は訊かずに、振り返ってスクリーンを見つめていた。
 でも、後で戻ってきたトチローさんに訊いたら、エンジン周りは部品が溶けかけるのを水素の氷かけて保たせているという、実は相当ヤバい状態だったそうで。
「じゃあ、エンジンが壊れる可能性もあったわけですか?」
「ああ。メルクリウスから積み荷を奪うのに五時間以上かかってたらヤバかった」
「ヤバかったって…。じゃあもし、失敗してたら…」
「この船ごと ドッカーン!!! だ」
両手で爆発する仕草をしたトチローさんは、声も出なかった私の方を見て
「まあそう怖がるな。多分成功するだろうとは思ってた」
「あの…それって、ハーロックも知ってたんですか?」
「当然知ってたさ。不安がるだろうから言わなかったらしいが」
ちょうどそこで、海賊島に入った。いきなり風景が変わったんでびっくりしたんだけど、これからアルカディア号の改造工事するそうで、そのための工場があるという話だった。大気圏突入抜きで惑星内部に入るのが珍しくて、後方に流れていく宇宙を見ていたら
「俺は魔地と工場に行って来る。 、お前はミーメに案内して貰え」
「はい」
頷いて、ミーメさんの方を見た。