番外編・特別インタビュー! 2

永倉新八(以下永):おーい、お夢。来たぞ。

お夢(以下夢):あ、はい。分かりました。今開けます。

(長屋の扉を開けて、永倉が中にはいる。お夢がお茶を出す)

夢:それで、お話って、一体なんですか?

永:俺の知り合いの瓦版を出してるヤツが、新撰組隊士の日常って特集を組むことになってな。協力してくれと頼まれて、それで洋子の日常についてお前に聞こうという。

夢:洋子さんの日常ですか? 例えばどんな?

永:知りたいのは隊士の好物、クセ、日課だそうだ。

夢:──洋子さん、結構お菓子が好きなんですよ。八つ橋を毎日一個は必ず食べますし、あとワラビ餅とかクズキリとか。桜餅、ぼた餅も結構よく食べてます。それと、葵屋さんからお裾分けとか言って果物が時々来るんですけど、それも好きみたいですね。ブドウと梨とリンゴとモモと──。試衛館に来る前までは、結構いいもの食べてたんじゃないですか?

永:(一瞬黙る)さあな。あいつが試衛館に来る前のことは聞いてないから、よく分からん。まあ字も綺麗だし、ある程度裕福なところの生まれだったんだろう。

夢:そうらしいですね。私にも「読み書きそろばんは出来るようになってた方がいい」って、寺子屋にも行かせてくれるんですよ。暗くなる前に家にいるようにって言うから、早めに切り上げるようにはしてますけど。家でも手習いの面倒見てくれますし。

永:──そうか。

夢:けどその代わり、生活能力は殆どないですね。ここに来たとき、鍋も釜も埃被ってたんですよ、ホントに。布団の上げ下げと料理の盛りつけ、あと洗濯。これだけですよ、洋子さんがまともに出来るのは。あれでよく半年以上も一人暮らし出来たもんです。掃除も滅多にしなかったみたいですし。

永:あいつが掃除しないのは試衛館時代からさ。一日中道場にいたからそうそう部屋が汚れてたわけでもないんだが、師匠が全然表だって注意しないからたまに掃除すると埃が舞って大変だった。半年に一度だぞ、あいつがまともに掃除するのは。

夢:うわー。よくもまあそんな中で生活できたもんですね。

永:まあ実際、部屋には寝に帰るようなものだったからな。ここもあいつにとっては似たようなもんだろう。少なくともお前が来る前まで。

夢;そうでしょうねえ。普通だったらありそうな棚とかほうきとちりとりとかの日常用品がまるでなかったですもん。けどまあ、振り袖が一枚ありましたよ。銭湯に行くときに着るやつとか言ってて、その後私が作ったやつと代わる代わる着てます。

永:銭湯? お前と一緒にか?

夢:ええ。「まともな浪士なら女を襲いはしない」とか言って、昨日も行って来ました。危ないんじゃないかと思うんですけど、偽者なら振袖でも倒せるとかで、護衛用に木刀持って。暑くて風呂でも入らないとやっていけないそうで。

永:部屋は汚いくせに、自分の身体は綺麗にしたがるんだよな、あいつは。試衛館時代でさえことあるごとに銭湯に通って、そうでない時は井戸水を頭から被って。濡れた身体を手ぬぐいでこすると結構汚れは取れるらしくて、毎日やってた。

夢:そうなんですか。妙なところできれい好きなんですね。

永:それにしても、斎藤君の私生活不干渉ぶりも徹底してたな。朝だけはどういうわけか起こしに行くんだが、それから寝るまで、道場にいないときはほったらかしなんだ。さすがに外出には沖田君なんかがついて行ってたんだが、試衛館の中にいる限りでは我関せずだ。自分の部屋であれだけわめいてても無視するんだから、少しは道場でも聞き流してやればいいものを。

夢:ここでも毎日のように愚痴こぼしてますよ。斎藤さんがどうしたこうした、一回死んでくれればいいのにとか。前とか二度と屯所に姿を見せるなって、庭先で刀を振り回しながら怒鳴り散らしてました。よっぽど腹に据えかねることがあったんでしょうね。

永:それが実際は、自分にばっかり隊士の稽古を押しつけてとか言う下らん不満だったりするわけだ。模範稽古で気絶した自分を、池に落として起こしたとかな。

夢:──それって、斎藤さんもかなりひどいんじゃ……。

永:落としたと言っても、足をつかんで逆さ吊りにしたあいつの、首から上を水の中に突っ込んだだけだぞ。全身丸投げしたんじゃない。

夢:───。

永:まあ本人にとっては、五十歩百歩だろうがな。何しろ斎藤に前科がありすぎる。

夢:そうみたいですね。しかしあの二人、あんなに仲が悪いのによく土方さんたちがいつまでも一緒に仕事させてますね。能率悪いでしょうに。

永:見かけほど悪くないさ、あの二人の関係は。何だかんだ言って、お互いに相手のことをよく分かってる。分かってるのにどっちも変わらないから喧嘩するんだ。

夢:それって、まるで子供じゃないですか。

永:そうさ、だからお夢が心配する必要はないんだ。──と、そろそろ時間だな。じゃあ今日はこの辺で失礼するぞ。

夢:あ、はい。お仕事頑張って下さい。

 

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