特別インタビュー・リクエスト編4

(沖田たちが斎藤の家から帰った直後。縁側から斎藤が現れて)

斎藤(以下斎):ふう。やっと静かになったか。

お妙(以下妙):(後片づけをしながら)ええ。随分にぎやかな方たちでしたね。

斎:ま、一人特に騒がしいのがまだそこでぶら下がってるが…。これでやっと落ち着く。──しかし人の愛人の顔見て何が楽しいんだ、あいつら。挙げ句にいらんことは根ほり葉ほり訊くし…。お前も答えるの大変だったろう。

妙:いえ、私は特に──。あれくらいの話、蕎麦屋では日常茶飯事でしたから。誰が誰を好きになったのどこがいいのと──

斎:(横になりつつ)女にとっては普通、か。

妙:(台所から)まだ寝ないでください、お布団引きますから。

斎:──今日は俺が引くから、勝手に寝させろ。気分的に色々疲れてるんだ、こっちも。

妙:(戻ってきて)それでもこの散らかしようだと、まだ布団引く場所もないでしょう? 後少しだけ待って下さいね、早めに終わらせますから。

斎:(手酌で残りの酒を飲みつつ)それにしても、あいつらは何でなれそめのことなんざ訊きたがるんだ。どういう経緯で他人と知り合おうが関係なかろうが。新撰組で隊士やってて、その程度も理解出来んとは。

妙:さあ…。(お盆に汚れた皿を載せつつ)男女関係は特別なんでしょうね、あの人たちにしてみれば。

斎:特別と言ってもだ、行きつけの蕎麦屋の客と店員が仲良くなってそういう関係になるなど、腐るほどある話だぞ。

妙:その間に何もなければ、そうでしょうけど。──閉店間際に傷だらけの一さんが店に入ってきたときは、さすがにびっくりしましたわ。服も返り血と出血で真っ赤で、刀も血が滴っていて。一体何事かと。

斎:あの時はお前と女将が遅番で残ってたんだっけな。俺は不逞浪士に襲われて、どうにか返り討ったんだが重傷で。近くにあの店があるのは分かってたから、消毒だけでもしようと思って寄ったんだ。

妙:いきなり「酒はあるか」ですもの。一瞬何のことやら──

斎:ある意味女将がいて助かった。流石に慣れてて、消毒用の焼酎だとすぐに気づいてお前に持ってこさせて。

妙:自分で傷口に焼酎かけて治療しようとしましたね。さすがに凄い度胸だと思いましたよ。私は今でもそんな真似は出来ませんわ。

斎:自分でかけた方が返って痛みは軽いもんなんだ。──それでも気絶寸前まで行ったがな、あの時は。その後俺が帰ろうとするのを女将が止めて、あの蕎麦屋の二階の空いた部屋に泊まらせた。その時の世話をお前がしたんだっけな──。

(斎藤、その時のことを思い出す──以下回想)

斎:後は一人でやる。お前はさっさと寝ろ。

妙:ですが──

斎:男がいるんだろう? 後で面倒になるのは御免だ。

妙:──……

斎:まだ、例の男と別れたきりか。

(何も言わないお妙に、斎藤が一息つく。そして)

斎:──前に言っただろう、お前程度の器量で窮屈などという奴は、自分がよっぽど阿呆で器量がないと白状してるようなもんだと。そいつよりいい男は多分探せばいくらでもいる。いつまでもうじうじ悩むな。

妙:分かってます。でも──

斎:大体、女なんてのは相手の男次第でいくらでも変わるもんなんだ。俺の知り合いにも性格激変した奴がいる。ま、そいつの場合はただ単にキレてじゃじゃ馬に成り下がった口だが。──とにかく、俺から見ればその男はお前を変えようともせずに逃げた士道不覚悟者だぞ。その時点で切腹だ。

妙:そんな、切腹は言いすぎでは……

斎:──お前、何故この期に及んで、自分を振った男を庇う?

妙:庇うだなんて。いくら何でも色恋沙汰で切腹はないでしょう、と言いたかっただけです。浮気して振ったなら話は違いますが。

斎:それほど憎んでも恨んでもいないってわけか。所詮、その程度の関係だったってことだろうな。

(お妙が言葉に詰まる。それを見やって)

斎:だったら、尚更さっさと忘れてしまえ。窮屈だか何だか知らんが、自分が悪いわけでもないのに抱え込まれるとこっちが苛つく。

妙:苛つくって──。関係ないでしょう、一さんには。

斎:関係ない、か。(鼻で笑って)俺の身近にもそう言う奴がいる。実際には充分迷惑被ってるんだがな。お前に即して言えば、客を苛つかせること自体で充分迷惑かけてるんだ。分かるな?

妙:(数秒黙った後で)そもそも、何でそう干渉したがるんです? 確かに最初に前の人のこと喋ったのは私ですが、それ以降は関係ないでしょう。これは私の問題です。放っておいて下さい。

斎:あいにく、放っておけと言われて放っておくほど、素直な人間じゃないんでな。──それにお前は、俺にとっていささか気になる女でもある。

妙:えっ…?

斎:──ま、そういうわけだ。とにかく前の男のことはさっさと吹っ切れ。それ以上のことはそれからだ。

(回想ここまで)

斎:完全に吹っ切るまで、それからまだしばらくかかったんだっけな、お前は。俺もよく我慢したと思うぜ、今となったら。

妙:三ヶ月くらいかかりましたっけ?

斎:いや、もっとだ。──俺が言うんだ、間違いない。

妙:でも、私の記憶だと三ヶ月後くらいに二人で密会して──

斎:会うだけだったろうが。それから更に三ヶ月で、やっと出逢い茶屋まで来た、ってのが俺の実感だ。お前は吹っ切ったつもりでも、俺からそうは見えなかった。実際演技してただろうが、わざとふざけて見せたりして。

妙:──それは……

斎:分かる奴には分かる。それだけのことだ。

(斎藤、そこで不意に立ち上がって縁側に行く。蓑虫状態の洋子に向けて)

斎:おいこら阿呆、貴様がいくら狸寝入りしてても分かるんだ。聞いたもんは仕方ないが、他人に言ったら覚悟しろ。

(応答がない。刀の鞘ごとでぶっ叩く)

洋子(以下洋):──痛いなあ…。覚悟っても、どうせ今みたいにぶっ叩くだけでしょうが。いいですよ、慣れてますから。

斎:──貴様は明日の朝食抜きだ。昼まで腹すかしてろ。

洋:何でいきなりそうなるんですか、こっちは何も悪いことしてないのに。横暴ですよ、それって。

斎:口答えなんざするからだ。──そもそも貴様のせいでお妙を他人に会わせる羽目になったんだ。

洋:悪事千里を走るって、前のお夢の時に言われた言葉、そっくり返しておきますからね。

   バゴッ!!!

妙:何か今、凄い音がしましたけど…?

斎:何でもない。(戻ってきて)──片づいたな、寝るぞ。

 

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