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国連安全保障理事会におけるドミニク・ド・ヴィルパンの演説

2003.2.14


 議長、事務総長、各国の大臣並びに大使の皆さん。

 イラクで現在進行している査察について私たちに与えてくれた情報に対し、ブリクス氏とエルバラダイ氏に感謝の意を表したい。また、彼らへのフランスの信頼と彼らの任務を全面的に支援することを表明したい。

 イラク危機の最初から、フランスが安保理の協調に重きを置いてきたことは知っての通りだ。この協調は今、二つの基本的な要素に寄っている。

 我々は、イラクを効果的に軍縮させるという目的を追求している。我々には、成果を上げる義務がある。この目的への我々共通の責任に疑いを投げかけないようにしよう。我々は皆、向こうが動いたり思い上がったりする余地を残してはならないこの面倒な責任を引き受けている。サダム・フセインとイラクの体制に対し、我々の中の誰一人として欲しいままにさせる気はないということを明らかにしよう。

 全会一致で採択した決議1441において、我々は皆フランスが提案した二段階アプローチに同意することを表明した。すなわち、査察を通した軍縮を選択し、もしこの戦略が失敗したならば、軍事力を用いることも含め、あらゆる選択肢を安保理が考慮すると。第二の決議をするのが道理にかなっているのは、明らかに査察が失敗した場合とそのシナリオを実行する時のみだ。

 今日の問題は単純だ。つまり、査察を通した軍縮は今、平静に考えて行き詰まっているのか? それとも、決議1441で示された査察に関する可能性はまだ十分に試されていないと考えるのか?

 この問題に関して、フランスは二つの確信を持っている。
 一つは、査察という選択肢はまだ終わっておらず、イラクを軍縮するという命令に対し、有効な手段をもって応じうるということ。
 二つ目は、武力の使用は人々やその地域、国際社会の安定にとって余りにも危険を伴うので、最後の手段としてのみ考えられるべきであるということ。

 では、我々はブリクス氏とエルバラダイ氏の報告から何を学んだのか? 査察が結果を出しているということだ。もちろん、我々はそれぞれもっと多くのものを望んでいるし、それを入手するために共にバグダッドに圧力をかけ続けるだろう。しかし、査察は結果を出しているのだ。

 一月二十七日の安保理への報告書では、UNMOVICの委員長とIAEAの事務局長が、前進が期待された分野を詳細に鑑定していた。そして以下の幾つかの点で、重要な情報が得られた。
 ・生物化学兵器の分野では、イラク人たちが新しい文書を査察官に提供した。彼らはまた、ブリクス氏の要求に従って、兵器開発計画の前任者による調査委員会の設置を発表した。
 ・弾道ミサイルの領域では、イラクの提供した情報によって査察官はまた前進出来た。ミサイルのアル・サムードの真の性能を我々は正確に知っている。ブリクス氏の決断に従って、その許可されていない計画は破棄されなければならない。
 ・核の領域では、一月二十七日にエルバラダイ氏によって検討された重要な点、つまりウランを濃縮するために使われる磁石の獲得と、ウランを生産したらしい国とイラクとの間の接触の一覧表について、役に立つ情報がIAEAに与えられた。

 さて、禁止された計画とそれらの除去を正確に確認することを通して、査察の効率性を確保しなければならない決議1441の論理の核心に入ってきた。
 我々は全員、査察の成功はイラクの十分で完璧な協力を得ることが前提条件だと理解している。フランスは一貫してこのことを要求してきた。
 現在の前進は、以下の点について明らかになりつつある。
 ・イラクが、領内への飛行機からの調査に同意したこと。
 ・イラク人の科学者が、立会人なしで査察官の質問を受けることを許可したこと。
 ・査察官の長年に渡る要求に従って、大量破壊兵器の開発計画に関連する全ての活動を禁止する法令が採択される途中であること。
 ・1991年に軍事開発計画の破棄に立ち会った専門家の詳しいリストを提供する予定であること。
 フランスはもちろん、これらの約束が永続的に検証されることを期待する。それ以上に、更にイラクに協力させるために、我々は強い圧力をかけ続けなければならない。

 こうした前進は、査察が有効であり得るという我々の信念を強化する。しかし我々は、まだ残っている仕事の量に目を閉ざしてはならない。というのも、問題はまだ解明されねばならないし、約束の検証もあるし、軍事施設や設備は恐らくまだ破壊されねばならない。
 これを実現するために、我々は次にくる全ての機会を査察に与えねばならない。
 ・二月五日に、私は安保理に幾つかの計画を提案した。
 ・その時、我々はブリクス氏とエルバラダイ氏に向けた、そして安保理のメンバーに配布された作業文書でそれらを詳述した。

 これらの計画の意図は何か?
 ・速やかに実行されうる、かつ実際の役に立つ具体的な提案で、査察活動の効率を上げるために計画されたものである。
 ・決議1441の枠組みの中に含まれ、従って新たな決議を必要としない。
 ・ブリクス氏とエルバラダイ氏の努力を支援しなければならない。後者は当然、彼らの仕事が最大限の効果を上げることを願うのがどの人々か、我々に教える最良の立場にいるからだ。
 ・レポートで、彼らは既に役に立つ活動上のコメントをしている。フランスは既に、偵察機ミラージュ4に始まる、ブリクス氏とエルバラダイ氏が利用できる資源を追加で発表した。

 さて、次の点に関する批判を聞こう。
 ・査察は全く有効でないと、原理的に考える人々がいる。しかし私は、このことはまさに決議1441の基礎であり、そして査察が結果を出していることを想起したい。不十分だと判断する人がいるかも知れないが、結果はそこにあるのだ。
 ・査察のプロセスを続けることは、軍事的干渉を妨げるための一種の遅延戦術だと考える人々がいる。それは当然、イラクに許された時間という問題を提起する。ここで、我々は議論の核心に到達する。危うくなっているのは我々の信頼性であり、責任感であるから、ありのままに事態を見る勇気を持とう。

 以下の二つの選択肢がある。
 ・戦争という選択肢は、直感的に最も速そうに見えるかも知れない。しかし、戦争に勝った後、平和を構築しなければならないということを忘れないようにしよう。この点について、勘違いしないようにしよう。これは長く、困難なものとなるだろう。というのも、武力侵攻の苛酷な影響を受けた地域や国において、持続的な方法でイラクの統一を維持し、安定を回復する必要があるだろうから。
 ・そういう見通しの上で、効率的で平和的なイラクの軍縮に向けて日々前進している査察という選択肢があるのだ。結局、戦争というあの選択肢は、最も確実というわけではなく、最も迅速というわけでもないのではなかろうか?

 今日、誰も戦争という方法が査察より簡単だと主張することは出来ない。戦争がより安全で、正しく、安定した世界に我々を導くのだと主張することも出来ない。というのは、戦争は常に失敗した者の制裁だからだ。現在、多くの挑戦がなされているにも関わらず、これが我々の唯一の手段なのだろうか?

 故に、国連の査察官たちに任務が成功するために必要な時間を認めよう。同時に、我々は警戒しつつ、ブリクス氏とエルバラダイ氏に安保理に定期的に報告するよう要求しよう。フランスは、査察の状況を評価するため、三月十四日に再び大臣級の会議を開催することを提案する。我々はその時、なされた前進と残された課題について判断することが出来るだろう。

 この文脈において、武力行使は現時点では正当化されない。戦争に代わる選択肢、査察を通してイラクを軍縮するという方法がある。その上、軍事的選択肢に余りにも早く依存すれば、結果は危険に満ちているだろう。
 ・今日、我々の行動の権威は国際社会の統一に基づいている。早すぎる軍事的干渉は、この統一に疑問を投げかけ、ついには正統性と効果に傷をつけることになるだろう。
 ・そのような干渉は、この傷ついた、壊れやすい地域の安定に予測不可能な影響を及ぼすかも知れない。それは不公平感を一層ひどくし、興奮を高め、他の紛争に道を開く危険を冒すことになるだろう。
 ・我々は全員、同じ優先事項──テロリズムと容赦なく戦うこと──を共有している。この戦いには全員の決心が必要だ。あの九月十一日の悲劇以降、これは我々が直面している最も高い優先順位を持つものの一つになった。そしてフランスは、このひどい惨禍によって幾度も非常に苦しんだ国として、我々全てに関わり、そして共に遂行しなければならないこの戦いに完全に参加している。それがフランスのイニシアチブで一月二十日に開かれた安保理会議の意義だった。

 十日前、合衆国のパウエル国務長官は、噂されたアル・カイーダとバグダッドの政権との関連について報告した。現在の調査と諜報の状況を教えられたのだが、我々の側との接触では、そのような関連を立証することは全く不可能だった。他方で我々は、議論中の軍事行動がこの計画において持つだろう影響を評価しなければならない。そのような干渉は社会や文化や民族の間の分裂、テロリズムを育てるような分裂を激化させやすくするのではなかろうか?
 フランスはずっとこう言ってきた。即ち、いつかもし査察官たちがレポートで査察の続行は不可能だと言うのであれば、武力が使われる可能性を排除しないと。安保理はその時決断を下さなければならず、そして構成国は、その責任の全てを果たさなければならないだろう。そうした万一の場合に備え、二月四日にあった最近の討論で強調した、答えねばならない問題を想起したい。
 即座に武力に頼ることを正当化する、脅威の程度と特徴はどこまでか?
 そのような干渉に関するかなりの危険が実際に抑えられ得ることを、どうやって保証するのか?
 いずれにせよ、そうした万一の場合には、実際にその有効性を保証するのは国際社会の統一だろう。同様に、何が起きようとも、将来において構築されるべき平和の中心にいるのは国連だろう。
 議長、いつどのように我々が戦争に道を譲るのかと苦悶している人々に、この安保理では、性急さや誤解、疑い、或いは恐怖のうちに何かがなされることは決してないと言明したい。
 この国連という殿堂では、我々は理想の守護者であり、良心の守護者である。我々が持っている厄介な責任と巨大な特権を使って、平和のうちに軍縮することを優先しなければならない。

 これは、戦争と占領、そしてそれに伴う残虐行為を知っている、地雷のような大陸であるヨーロッパの古い国・フランスからのメッセージだ。フランスがあるのはアメリカや他の地域から来た自由の戦士のおかげであることを、何もかも忘れたわけではないし、全てを知ってもいる。そしてフランスは、歴史に照らして、そして人類の前で、公正でなくなったことはない。フランスは、自国の価値観に忠実に、国際社会の全てのメンバーと共に行動することを強く望む。フランスは、我々が共により良い世界を築くことが出来ると信じている。

 ご静聴ありがとう。

 

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